社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~63
2025/12/12
「納税者ら当事者は、各土地の売買契約を締結するに際し、税務署からみなし贈与と指摘されることのないよう、不動産鑑定士による鑑定評価額を時価であると認識して売買代金額の合意をしたのであるから、売買契約当時、契約当事者が全く予定していなかったみなし贈与税の納税義務が発生することは、売買契約にとっては要素の錯誤となり、売買契約は無効であるとの納税者の主張が、納税者が依頼した不動産鑑定士による鑑定評価額は、その方法、判断過程及び内容に合理性を欠くところが多く、各売買契約の締結に先立って、各売買契約の目的不動産の正常価格ないし限定価格を鑑定評価するために作成されたものであるかについて合理的な疑問が存するから、納税者らが、各売買契約の締結に当たり各土地の売買代金額が時価(客観的交換価値)と乖離するものではなく相続税法7条の規定によるみなし贈与の課税の対象となるものではないとの認識を有し、かつ当該認識(動機)を表示して各売買契約を締結した事実を証拠上認めるのは困難であり、さらに、納税者は時価と売買代金額との差額に相当する経済的利益を現実に享受していたということができ、納税者が主張するような錯誤無効が国税通則法23条2項各号にいずれの事由にも該当しないことをも併せ考えると、少なくとも各土地の取得に係る贈与税の法定申告期限の経過後においては、各売買契約の錯誤無効を主張して贈与税の課税を免れることは許されないとして排斥された」すなわち「不動産鑑定評価額に合理性を欠く」⇒(中略)⇒「錯誤無効の主張は認められない」とあります。
鑑定評価額の合理性についての主張は当然、納税者が負いますが、それが不知、うっかりであっても同様の結論になると思われます。
下記については第一審・大阪地方裁判所 平成18年11月17日判決(TAINSコードZ256-10575)も併せて参照するとよいでしょう。
〇大阪高等裁判所 贈与税更正処分等取消請求控訴事件 平成20年3月12日棄却・確定(TAINSコードZ258-10916)
〔事案の概要〕
納税者がその母である乙が所有していた不動産を買い受けたところ、被控訴人が、上記売買が相続税法7条の著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に該当するとして、売買時における本件不動産中の土地の時価であるとする額と売買代金との差額に相当する額を乙から贈与により取得したものとみなした事案。
〔当事者の主張〕
○納税者の主張
納税者の母は、納税者に対し、別件土地が市の名義であると説明しないまま、本件売買契約を締結したものであり、別件土地の所有権移転登記を受けられなければ、他の土地等を購入することはなかったから、内容証明郵便により、民法563条2項(権利の一部が他人に属する場合の売主の担保責任)に基づいて、本件売買契約を解除したのであって、同契約を贈与とみなして課税することはできない。
○課税庁の主張
①納税者の母及び父は、多数の不動産を取得、賃貸、賃借して賃貸マンション等を経営する会社を経営していたこと、②納税者の父及び母は、行政指導に基づく開発寄附金の負担軽減のために、別件土地を分筆した上で市に寄附し、その所有権移転登記まで経由したこと、③別件土地は所有権移転登記が経由されず、かつ納税者がこれを問題にした形跡がないこと、④納税者は、本件売買契約の不動産として別件土地以外の土地等の鑑定評価は依頼したが、別件土地は評価対象にしなかったこと、⑤本件各処分に係る異議申立書の理由欄には、別件土地の地番は記載されていなかったこと、⑥本件売買契約の締結後に提起された別件訴訟において、別件土地が納税者の母の所有にかかることを前提に納税者に譲渡された旨の主張立証がなされた形跡がないこと、⑦本件訴訟の原審の審理において、納税者が別件土地を母から売買で取得した旨の主張立証がなされていないこと等の事実に照らせば、納税者とその母との間の不動産売買契約の対象に別件土地が含まれていたことを認めることはできないから、本件売買契約は、売買の目的である権利の一部が他人に属する場合(民法563条1項(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任))に該当せず、同条2項に基づく解除をすることができない。
